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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3123号 判決

原告(第三一二三号) 前田武雄 他六四名

同(第七三三三号) 佐々木康子 他三名

右訴訟代理人弁護士 田中峯子

被告 谷口興業株式会社

右代表者代表取締役 谷口勉

右訴訟代理人弁護士 中吉章一郎

被告 鈴木誠一

右訴訟代理人弁護士 今村實

被告 株式会社雄建築事務所

右代表者代表取締役 小川雄作

右訴訟代理人弁護士 上野修

被告 株式会社辰村組

右代表者代表取締役 中側尚英

右訴訟代理人弁護士 鈴木弘喜

右訴訟復代理人弁護士 卜部忠史

主文

一  被告谷口興業株式会社及び同鈴木誠一は、原告前田武雄及び同尾曽越俊邦を除く原告らに対し、連帯して別紙請求金目録の各原告の「認容金額」欄記載の金員並びに被告谷口興業株式会社は昭和五七年四月一八日から、被告鈴木は同年四月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告前田武雄及び同尾曽越俊邦を除く原告らの被告谷口興業株式会社及び同鈴木誠一に対するその余の請求並びに被告株式会社雄設計事務所及び同株式会社辰村組に対する請求をいずれも棄却する。

三  原告前田武雄及び同尾曽越俊邦の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告前田武雄及び同尾曽越俊邦と被告らとの間においては全部同原告らの負担とし、その余の原告らと被告谷口興業株式会社及び同鈴木誠一との間においては、同原告らに生じた費用の五分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、同原告らと被告株式会社雄設計事務所及び同株式会社辰村組との間においては、全部同原告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  (主位的)

被告らは各自、各原告に対し、別紙請求金目録の各原告の「請求金額(A)」欄記載の金員を支払え。

(二)  (予備的1)

被告らは各自、各原告に対し、別紙請求金目録の各原告の「請求金額(B)」欄記載の金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告谷口興業株式会社については昭和五七年四月一八日、その余の被告については同月二〇日)から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  (予備的2)

被告らは各自、各原告に対し、別紙請求金目録の各原告の「請求金額(C)」欄記載の金員及び同目録の各原告の「損害金起算日」欄記載の日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

原告らの訴えをいずれも却下する。

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 別紙権利明細表の冒頭記載の建物(通称「小金井桜町コーポラス」、以下「本件マンション」という。)は、被告鈴木が昭和四五年四月ころ被告株式会社雄建築事務所(以下「被告雄」という。)に設計・監理を委託し、被告株式会社辰村組(以下「被告辰村組」という。)に工事を請負わせて建築したものである。

(二) 被告谷口興業株式会社(以下「被告谷口」という。)は、昭和四五年一〇月一二日、被告鈴木から本件マンションの販売を委託され、施主・申込先として、別紙権利明細表記載の原告番号(以下単に「原告番号」という。)に☆印を付した原告らに対し、又は★印を付した原告らについては同目録の「直接購入者」欄記載の者らに対し、同表の「左記の者の売買成立日」欄記載の日に「所有建物の番号(以下「建物番号」という。)」欄記載の部屋の区分所有権を販売したものである(以下、右☆印を付した原告ら及び直接購入者らを総称して「買主ら」という。)。

(三) 原告らのうち、原告番号に★印を付した原告らは、別紙権利明細表の「直接購入者」欄記載の者を経由して、☆印を付した原告らは被告谷口から直接、本件マンションのうち同表記載の各部屋の区分所有権を買い受け、これを所有し又は共有しているものである。

2  本件マンションの欠陥(建ぺい率違反)

(一) 本件マンションの建築確認は、その敷地を訴外好村喜代所有にかかる小金井市桜町一丁目四九三番一の土地(登記簿上五七六・三九平方メートル、以下「本件〈1〉の土地」という。)及び同番五の土地(同四九二・五六平方メートル、以下「本件〈2〉の土地」という。)のほか訴外鴨下正治(以下「鴨下」という。)所有にかかる同市桜町一丁目四九二番一の土地のうち一二六・九五平方メートル(以下「本件〈3〉の土地」という。)を合わせた合計実測面積一三〇〇・二一平方メートル、建築面積七四四・一〇平方メートルとし、被告鈴木を建築主として申請がなされ、昭和四五年七月七日及び同年一〇月二八日付けで建築確認がなされたものであって、この建築確認に基づいて被告辰村組が施工し、昭和四六年八月本件マンションを完成させたものである。

(二) 本件マンションの建築確認申請当時、好村喜代は、本件〈3〉の土地に借地権を有し、本件〈1〉ないし〈3〉の土地にまたがる形でスーパーマーケットの店舗を所有していたが、同人は右確認通知後右店舗を取り壊し、昭和四六年九月五日、本件〈3〉の土地上に建物を新築し、昭和四七年五月二九日、息子好村昌之名義で保存登記をしたうえ、担保権を設定した。そして、昭和五二年二月八日、山田由太郎が右建物を競落し、さらに、昭和五三年五月一五日、谷田部重雄が右建物を買い受け、同月一六日同人が鴨下から本件〈3〉の土地の所有権を取得したので、同土地を本件マンションの敷地として利用する可能性は全くなくなった。

(三) ところで、本件マンションの建築確認申請時である昭和四五年七月ないし一〇月当時の建築基準法上の規制によると、本件〈1〉及び〈2〉の土地は同法九一条、六七条に基づき、住居地域、第二種空地地区(空地率一〇分の三以下)、準防火地域であり、本件〈3〉の土地は住居地域、建ぺい率六〇パーセント以下、準防火地域であった。しかるに本件〈1〉及び〈2〉の土地を合わせた実測面積は一一七七・三一平方メートルであって、仮に本件〈3〉の土地を加えないとすると、右建築確認申請当時、その三〇パーセントに当たる三五三・一九三平方メートルの建物の建築許可しか下りなかった筈であるのに、本件〈3〉の土地を敷地として加えたため、同法九一条により建ぺい率が六〇パーセントとなり、本件マンションの建築許可が下りたのである。また、本件マンション完成時である昭和四六年八月における規制によっても、敷地が本件〈1〉及び〈2〉の土地のみであったとするならば、右土地は第七種空地地区で、空地率の適用はなくなったが、建ぺい率は三〇パーセント以下であったから、本件マンションが建ぺい率を大幅に超過する違法な建築物であることに変わりはない。

3  被告らの不法行為責任

(一) 被告鈴木は、昭和四四年末ころから本件マンションの建築を計画するに当たり、建築面積の拡大を企図し、本件マンションの敷地として利用する意思も見込みも全くないにもかかわらず本件〈3〉の土地をマンションの建築敷地として加え、建築確認申請を行おうと考え、他の被告らも右計画に賛同し、昭和四五年九月九日ころ、被告らは右計画の実行を共謀し、前記のとおり確認申請をし、建築確認を得たものである。

(二) 被告鈴木は、本件マンションの建築主で、実質上の売主であり、被告谷口は同鈴木から本件マンションの販売を委託され買主らとの関係では直接の売主となったのであるから、両名は、本件マンションが敷地面積が不足している違法建築物であることを告知すべき義務があったにもかかわらず、これをあえて告知しなかったばかりか、本件マンション販売のパンフレットに敷地の地番を記載せず、敷地面積が一三〇〇・二一平方メートルである旨記載しながら、買主らとの売買契約書には敷地面積を記載せず、敷地の地番として本件〈1〉及び〈2〉の土地の地番のみを記載しているほか、敷地に関する権利の共有持分割合も記載しなかった。また、本件マンションの各区分所有者が好村喜代に対して支払うべき借地料についても、総敷地面積に一平方メートル当たり又は坪当たりの単価を乗じてそれを各区分所有者の共有持分割合で分割すれば簡単に算出することができるのにもかかわらず、各専有面積一坪当たり一か月金四〇円という奇妙な計算方法によるなどして、敷地面積が不足していることを巧妙に秘匿し、本件マンションが、敷地総面積一三〇〇・二一平方メートルで、敷地面積に不足のない建築基準法上適法な建物であると誤信した買主らに対し、本件マンションの区分所有権を売り渡した。

(三) 仮に、本件マンションの敷地面積の不足が、本件マンションが完成した時点で好村喜代と被告鈴木との間に生じた紛争に起因していたとしても、被告鈴木及び同谷口は売主として、建築基準法上、完成検査に合格しなければ入居させることが許されないのであるから、買主らに対し、本件マンションが建ぺい率に違反する建物となってしまい完成検査に合格しない旨を、別紙権利明細表記載の各保存登記受付年月日までに告知すべき義務が存在していたというべきである。右告知があれば、買主らはその時点において本件マンションの売買契約を解除することが可能であったから、右事実を黙秘して売却したのは不作為による欺罔であり、不法行為に該当する。

4  被告鈴木及び同谷口の瑕疵担保責任

(一) 被告鈴木及び同谷口は、前記のとおり買主らに対し本件マンションの各区分所有権を売り渡したのであるが、同被告らは、昭和五四年一二月九日に行われた説明会の席上、本件マンションが建築基準法に違反しているとの事実を初めて明らかにした。買主らのうち、訴外高橋義文(建物番号一〇七)、同高橋好道(同三〇七)、同塩川律(同五〇二)、同川村邦彦(同五〇九)、同泉谷芳弘(同六一〇)、同長束志郎(同七〇二)、同有川武雄及び同有川澄子(同三〇三、なお同人らは、原告番号5及び6の者でもある)並びに右の各人から本件マンションの区分所有権を譲り受けた各原告を除く原告らは、昭和五五年三月二三日の集会の席上、右被告らの不法行為及び売主としての義務違反を追及し、建ぺい率違反の本件マンションを販売したことについて、損害の賠償を請求した。原告らのうち、右被告らからの直接購入者でないものについては直接購入者の右被告らに対する損害賠償請求を代位行使したものである。

(二)(1)  原告ら及び前記訴外人らは、前記説明会から一年以内である昭和五五年一一月二八日到達の各内容証明郵便で右被告らに対し、本件の瑕疵についての損害賠償請求をなした。右訴外人らから(中間譲受人を介した者もあるが)区分所有部分を譲り受けた原告番号5、6、51、52、62、68、69の各原告は、別紙権利明細表の「売買契約成立日」欄記載の日に右損害賠償請求権を承認した。

(2)  また、原告番号に★印を付した各原告は、別紙権利明細表記載の直接購入者又は中間譲受人から、それぞれ同目録「本件債権の譲渡日」欄記載の日に、右損害賠償請求権の譲渡を受けた。

5  損害

(一) 本件マンションは、建築基準法に違反した建物であるから、原告らは、同法九条により行政庁から違反建築物として除去等を含む各種の違反是正措置を命ぜられる危険を負っており、将来の再建を考慮しても、このままでは土地の利用率が制限されている以上、本件マンションの交換価値は計り知れないほど低下している。原告らがこれを適法な建築物とするためには、本件〈3〉の土地所有者との間で、少なくとも借地権設定の交渉を行わざるを得ないから、本件〈3〉の土地に借地権を設定するために必要な費用が、原告らの損害となる。

(二) 不動産鑑定士鐘ヶ江晴夫の評価によれば、口頭弁論終結時に最も近い借地権価格といえる昭和六三年三月一日における本件〈3〉の土地の借地権価格は金一億二二〇二万四五四三円であるから、各原告は、右金額を各自の持分割合で按分した別紙請求金目録の「請求金額(A)」欄記載の額の損害賠償請求権を有する。

(三) 仮に、前記(二)の昭和六三年三月一日における損害が認められないとしても、原告らは、本訴を提起した昭和五七年三月一六日における本件〈3〉の土地の借地権価格を各自の持分割合で按分した額である別紙請求金目録の「請求金額(B)」欄記載の額の損害賠償請求権を有する。

(四) 仮に、前記(二)、(三)の各損害が認められないとしても、原告らは、少なくとも買主らの大半が本件マンションの区分所有権の売買契約を締結した昭和四六年六月から一〇月までの中間である昭和四六年八月時点における本件〈3〉の土地の借地権価格を各自の持分割合で按分した額である別紙請求金目録の「請求金額(C)」欄記載の額の損害賠償請求権を有する。

よって、原告らは、第一次的に不法行為に基づく損害賠償請求として被告らに対し、第二次的に瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求として被告谷口及び鈴木に対し、いずれも連帯して、請求の趣旨記載の各金員の支払を求める。

二  被告らの本案前の主張

本件は準備手続を経ており、その結果を要約した準備手続調書において、原告らは、本件マンションの区分所有権の交換価値の低下による損害として各室当り金一五〇万円の損害賠償を請求していたが、準備手続終結後の昭和六三年六月二一日の口頭弁論期日で、前記一のとおりに請求の趣旨及び原因を変更した。これは、訴えの変更であり、準備手続調書に記載のない事項を主張するものであるから、民事訴訟法二五五条一項本文に違反し、不適法として却下されるべきである。

三  被告らの本案前の主張に対する原告らの答弁

原告らの請求の趣旨及び原因の変更は、民事訴訟法二五五条一項但書の「著しく訴訟を遅延せしめざるとき」に該当するので、被告らの本案前の主張は失当である。すなわち、準備手続の段階で本件の損害を主張するについては、本件マンションの建築確認申請の記録が存在せず、被告雄が右申請時に添付図面として提出していた図面も誤っていたうえ、昭和四五年一二月二二日に地域指定が変更されたため、小金井市に保管されていた一枚の用途地域図だけでは、本件マンションの建築確認申請時と完成時の建ぺい率、容積率等を明らかにするのは困難であった。また、本訴提起時には、本件マンションは違反建築物として売買ができない状態であったうえ、昭和六一年ころから東京都を中心とする異常な地価高騰により、本件マンションの価格低下を正確に査定することが困難となった。そのため、原告らは、本件の損害について、建築確認の際本件マンションの敷地とされていた本件〈3〉の土地の価格を根拠として算定せざるをえなくなったのである。そして、裁判所もこのような状況をふまえ、原告らの本件〈3〉の土地の価格についての鑑定申請を採用し、これに対して被告らも何ら異議を述べなかった。

四  請求の原因に対する認否及び主張

(被告谷口)

1(一) 請求の原因1(一)(二)の事実は認める。

(二) 同1(三)の事実中、原告番号に☆印を付した原告(ただし原告番号31の原告を除く)及び★印を付した原告のうち番号1の原告については認め、その余は不知。

2(一) 同2(一)の事実は認める。

(二) 同2(二)の事実中、好村喜代が鴨下から本件〈3〉の土地を賃借し、本件〈1〉、〈2〉の土地にまたがる形で同人所有のスーパーマーケットの店舗の敷地として使用していたこと及び本件〈3〉の土地が谷田部の所有になっていたことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同2(三)の事実は否認する。本件〈3〉の土地の所有者である鴨下は右土地を本件マンションの敷地とすることを承諾し、借地権者好村喜代も本件マンションの実質的建築主として当然敷地とすることに同意していた筈であるから、本件マンションは建築基準法上適法である。

3(一) 同3(一)の事実は否認する。

被告谷口は、昭和四五年一〇月一二日、被告鈴木との間で、本件マンションについての不動産販売委託取引契約を締結し、右契約に基づき、被告鈴木の代理人として本件マンションの分譲販売業務を代行したに過ぎず、本件マンションの計画、建築確認申請及び建築に関与したことはない。また、本件〈3〉の土地に敷地利用権を設定することは、被告谷口の受託業務外であるうえ、右のとおり本件〈3〉の土地の借地権者好村喜代は本件〈3〉の土地を本件マンションの敷地とすることにつき同意していたのであるから、そもそも本件〈3〉の土地に敷地利用権を設定する必要もなかった。

(二) 同3(二)の事実中、パンフレット及び売買契約書の敷地に関する記載内容並びに本件マンションの敷地の借地料の算定方法につき原告ら主張の方法をとったことは認め、その余の事実は否認する。

本件マンション建築の目的は、好村喜代らの借財返済資金の調達にあったため、好村喜代は被告鈴木に対し、本件〈3〉の土地上の店舗部分(未登記のもの)につき、本件マンションの建築中は仮設店舗として残すが、完成後は直ちに取り壊す旨約していたのであって、本件マンションは違法建築物ではなかった。被告谷口は、被告鈴木から本件〈3〉の土地に関し、何らの委託も受けていなかったうえ、本件マンションを分譲販売していた当時には、好村喜代と被告鈴木との間でその後紛争が生じ、好村喜代が本件マンション完成後、約束に反して本件〈3〉の土地上の建物を取り壊さず、結局、右建物取り壊し義務の履行が不可能になることは知り得ず、また予想し得ないことであった。

(三) 同3(三)の事実は否認する。

前述のとおり、好村喜代と被告鈴木との間で紛争が生じたのは昭和四八年九月ころのことで、買主らに対する分譲販売後のことであり、被告谷口は関知しない。また、被告谷口は被告鈴木の代理人として、商行為である本件マンションの分譲販売をなしたのであるから、売買契約上被告鈴木のためにすることを示さなかったとしても、商法五〇四条により本件マンションの分譲行為は被告鈴木に対して効力を生じている。さらに、被告谷口と被告鈴木との間の不動産販売委託取引契約において、被告谷口は登記手続完了時まで買主に対する責任を負うこととされているので、登記手続完了によって買主らに対しすでに免責されているから、被告谷口は原告らに対する売主としての責任はない。本件マンションが完成検査の検査証の交付を受けられなかったのは、本件〈3〉の土地上の仮設建物が撤去されなかったためで、建ぺい率違反の建物であったからではないから、被告谷口には原告ら主張のような告知義務違反はない。

4(一) 同4(一)の事実中、原告らのうち同1(三)で認めた者に対し被告谷口が本件マンションの分譲販売を代行したこと及び被告谷口のその余の売買の相手方が原告ら主張のとおりであることは認めるが、右以外の原告らについての事実は不知、その余は否認する。

原告主張の説明会や集会は、好村喜代の代理人が敷地の分譲販売のために開催したもので、その席上で被告谷口が損害賠償請求を受けたことはない。なお、建ぺい率違反は本件マンションの全容積との関係における建築基準法上の問題であり、そのことは各戸の区分所有権を対象とした本件マンションの売買契約における売買の目的物の瑕疵にはならない。

(二) 同4(二)(1) 、(2) の事実中、原告ら主張の書面が到達した事実は認め、損害賠償債権譲渡の事実は不知、その余は否認する。

5 同5の(一)ないし(四)の事実は否認する。本件〈3〉の土地は、本件マンションの販売価額には全く算入されていないので、買主らには損害は何ら存在しない。

(被告鈴木)

1(一) 請求の原因1(一)(二)の事実は認める。

(二) 同1(三)の事実は不知。

2(一) 同2(一)の事実は認める。

(二) 同2(二)(三)の事実についての認否は、被告谷口と同じである。

3(一) 同3(一)の事実中は否認する。

被告鈴木が本件マンションの建築・販売を計画したのは、好村喜代の夫好村元三がその債務の弁済資金を調達するために本件〈1〉ないし〈3〉の土地上にマンションを建てて分譲しようとしていたところ、同人の依頼では建築会社が工事を請負ってくれなかったため、被告鈴木が右債務のうち多数について保証していた関係上、同人からの協力要請に応じざるをえなかったからである。このような協力要請をするに際し、好村元三は被告鈴木に対し、本件〈3〉の土地は既に所有者から買い取る予定で代金の一部は支払済である旨説明したうえ、本件マンションの建築に当たり、本件〈3〉の土地上に仮店舗及び仮住居を建て、マンション建築期間中はこれを利用するが、完成時には収去して本件マンション内に確保された住居及び店舗に移転する旨約束し、被告鈴木もこれを了解したものである。したがって、本件マンションの建築確認申請当時、本件〈3〉の土地は敷地として利用する見込みがあり、また被告鈴木にはその意思もあった。

(二) 同3(二)の事実中、借地料が各専有床面積一坪当たり一か月四〇円という計算方法によったことは認め、その余の事実は知らず、法律上の主張は争う。

(三) 同3(三)の事実は否認する。

被告鈴木はそもそも買主らとの関係において売買契約の直接の当事者となっていないのであるから、原告ら主張のような告知義務はなく、原告らの主張は失当である。

4(一) 同4(一)の事実中、原告らのマンションの取得経緯は不知。その余は否認する。

(二) 同4(二)の事実中、原告ら主張の書面が到達した事実は認め、損害賠償債権譲渡の事実は不知、その余は否認する。

5 同5の(一)ないし(四)の事実は否認する。

(被告雄)

1 請求の原因1(一)の事実は認めるが、同(二)(三)の事実は不知。

2(一) 同2(一)の事実は認める。

(二) 同2(二)の事実中、本件マンション建築前、本件〈1〉ないし〈3〉の土地上にスーパーマーケットの店舗があったことは認め、その余は不知。

(三) 同2(三)の事実中、本件マンションの完成時の建築基準法の規制によると、本件〈1〉及び〈2〉の土地を合わせた土地は、第七種空地地区で、過半を占める建ぺい率が三〇パーセント、容積率の規制はないこと、本件〈3〉の土地を加えた場合の過半の建ぺい率が六〇パーセントになることは認めるが、その余の事実は否認する。

3(一) 同3(一)の事実は否認する。

被告雄は、被告鈴木から、本件〈1〉ないし〈3〉の土地上に分譲用のマンションを建築するが、うち〈1〉及び〈2〉の土地については現実に建物敷地として分譲し(借地権分譲方式)、〈3〉の土地については好村喜代がその経営する酒類販売店専用の屋外駐車場、空瓶等の置き場として使用する、すなわち、実質上の分譲者である好村喜代が分譲を保留して自ら利用ないし使用すると聞いており、右依頼の趣旨に従って、本件マンションの設計・管理をなしたに過ぎないから、原告ら主張のような違法はない。

(二) 同3(二)の事実は不知。

4 同5(一)ないし(四)の事実は否認する。原告らは、もともと売買の対象になっていない本件〈3〉の土地についての損害を主張しているのであって、不当である。

(被告辰村組)

1 請求の原因1(一)の事実は認めるが、同(二)(三)の事実は不知。

2(一) 同2(一)の事実は認める。

(二) 同2(二)の事実中、本件マンションの建築前、本件〈1〉ないし〈3〉の土地上にスーパーマーケットの店舗があったこと、同店舗が本件マンションの建築のため、本件〈3〉の土地上の部分を除いて取り壊されたことは認めるが、その余は不知。

(三) 同2(三)の事実は不知。

3(一) 同3(一)の事実は否認する。

本件〈3〉の土地は、当初から借地権を買主らに譲渡または転貸することになっていなかったものであるが、鴨下及び好村喜代は本件〈3〉の土地を本件マンションの建築基準法上の敷地として使用することは承諾していたから、違法建築ではない。

(二) 同2(二)の事実は不知。

4 同5(一)ないし(四)の事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  被告らの本案前の主張について

被告らは、原告らが準備手続終結後に請求の趣旨及び原因を変更したのは民事訴訟法二五五条一項本文に違反し許されないと主張する。しかしながら、右主張の変更は鑑定の結果(昭和六三年四月二六日に行なわれた口頭弁論期日において結果陳述)に基づいて、損害算定の方法を整理主張したに過ぎないのであって、そのことの故に著しく訴訟を遅滞させるものではないから、被告らの右主張は採用しない。

二  本件マンションと当事者との関係(請求の原因1)について

1  請求原因1(一)の事実は全当事者間に争いがない。

2  同1(二)の事実は、原告らと被告谷口及び同鈴木との間に争いがなく、原告らと被告雄及び同辰村組との間においては、証拠並びに弁論の全趣旨によって認められる。

3  同1(三)の事実は、右1(二)の事実と〈証拠〉によって認められる(ただし原告らと被告谷口との間においては、原告番号1の原告及び原告番号に☆印を付した原告ら(31を除く)に関しては争いがない。)。

三  本件マンションの欠陥(請求の原因2)について

1  本件マンションの建築確認は、被告鈴木が建築主となり、敷地として好村喜代所有にかかる本件〈1〉及び〈2〉の土地に鴨下所有にかかる本件〈3〉の土地を加えた合計実測面積一三〇〇・二一平方メートルとして申請がなされ、昭和四五年七月七日及び同年一〇月二八日付けで建築確認がなされたこと、本件マンションは被告辰村組が施工して、昭和四六年八月完成させた、その建築面積が七四四・一〇平方メートルであることは、当事者間に争いがない。そして〈証拠〉によれば、右のとおり建築確認が再度なされたのは、近隣住民からの日照に関する要望を入れ、七階の一部を削る設計変更をして申請を出し直したためであって、この変更された申請によってなされた右一〇月二八日付けの建築確認に基づいて本件マンションが建築されたこと、そして右建築確認の手続に使用された敷地の図面は、おおむね別紙図面[第1図]記載のとおりであって、敷地の面積(一三〇〇・二一平方メートル)に対する建築面積(七四四・一〇平方メートル)の割合が五七パーセントとして確認がなされたことが認められる。

2  右建築確認がなされた当時本件〈1〉ないし〈3〉の土地にまたがる形でスーパーマーケットの店舗が存在していたことは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、本件マンションは、好村元三(本件〈1〉及び〈2〉の土地所有者である好村喜代の夫)が負担していた多額の債務を整理するため、好村喜代の叔父に当たる被告鈴木が建築主として本件〈1〉及び〈2〉の土地の上に建築することを計画したものであること、本件〈3〉の土地は好村元三が鴨下から賃借していたものであって、好村元三は、本件〈1〉及び〈2〉の土地の上にあった旧建物の部分は本件マンション建築のため取り壊したが、〈3〉の土地の上にあった建物の部分は北側に少し移動させたうえ増築し、本件マンション完成当時〈3〉の土地の上にはこの建物が存在していたこと、その後も好村元三は右建物を取り壊すことなく、昭和四七年五月二九日付けで息子好村昌之名義に所有権保存登記したうえ抵当権を設定したこと、そして、山田由太郎が昭和五二年二月八日付けで右建物を任意競売により競落し、さらに昭和五三年五月一五日、谷田部重雄が右建物を買い受けたこと、また本件〈3〉の土地の部分は、昭和五二年四月二五日付けで小金井市桜町一丁目四九二番一の土地から同番六宅地一三二・二四平方メートルとして分筆され、右建物と同様昭和五三年五月一五日谷田部重雄が鴨下から売買によりその所有権を取得したこと、等の事実が認められる。

ところで、建築基準法上の規制の基準となる「敷地」とは、「一の建築物…のある一団の土地」(同法施工令一条一号)であるが、右事実によれば、本件マンション完成当時、本件〈3〉の土地はその敷地としての要件を備えておらず、昭和五三年五月、谷田部重雄が地上建物とともにその所有権を取得した段階において、右土地の部分を本件マンションの敷地として利用することは事実上不可能となったものと認められる。

3  そこで関係土地に対する建築基準法上の規制について見るに、〈証拠〉によると、次の事実が認められる。

(一)  本件〈1〉の土地の前面道路は小金井市都市計画道路二二三号線として幅員一六メートルに拡幅される予定であり、その予定線(概略線)が本件〈1〉の土地内に約三・四六八メートルないし三・五五七メートル食い込むことになる。

(二)  昭和四五年一〇月当時における本件各土地の用途地域は住居地域(建ぺい率六〇パーセント)、準防火地域であったが、右概略線から奥に二〇メートルの線(これを仮に「イロ線」という。)から更に奥の地域は第二種空地地区(容積率三〇パーセント)とされていた。もっとも第二種空地地区は昭和四五年一二月二二日付けの東京都告示により廃止され、第七種空地地区(建ぺい率三〇パーセント)の規制区域となった。なお、空地地区の規制自体は昭和四八年一一月二〇日に廃止された。

(三)  その後、昭和五六年四月一〇日付けの東京都告示によって、右イロ線から道路側が第二種住居専用地域(建ぺい率六〇パーセント)、イロ線から奥の側が第一種住居専用地域(建ぺい率四〇パーセント)に指定された。

(四)  以上の規制を関係土地の実測図面上に示すと、別紙図面[第2図]記載のとおりとなるのであって、本件〈1〉及び〈2〉の土地をイロ線によって区分した道路側の部分(B)の面積は五四五・一三平方メートル、奥側の部分(C)の面積は六三二・一八平方メートルであり、また本件〈3〉の土地を一三二・二四平方メートルとして分筆した部分(A)は全部イロ線から道路側に存在している。昭和五一年法律第八三号によって改正される前の建築基準法九一条の規定によると、建築物の敷地が規制の内外にわたる場合には敷地の過半の属する地域の規制によるものとされていたから、本件マンションが完成された昭和四六年八月を基準とすると、A部分が敷地に含まれる場合と含まれない場合の建築可能面積は、同図面の下段(1) (2) に示したとおりであって、A部分が敷地に含まれないとするならば、本件マンションの建築面積は建ぺい率の規制に大幅に違反していることになる。なお、昭和五六年四月一〇日以降の規制によっても、建ぺい率違反であることに変わりのないことは、右改正後の建築基準法五三条二項の規定による同図面下段(3) の算式と数値によって明らかである。

4  以上のとおりであるから、原告らは建築基準法上の建ぺい率に関する規制を満たさない本件マンションの区分所有権を取得したことになり、その後の是正もなされていないのであるから、行政庁から違反建築物に対する是正措置(同法九条)を命じられる危険を負担するという不利益を受けているものと認められ、また再建築に当たっては当初の建築面積が確保されない可能性があるものと推認される。

四  被告らの不法行為責任(請求原因3)について

1  〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件マンションは、前記のとおり、好村元三が負担していた債務を整理するため、被告鈴木が本件〈1〉及び〈2〉の土地の上に建築することを計画したものであるが、被告鈴木は、本件マンションの建築面積を拡大するため、好村元三が鴨下から賃借していた本件〈3〉の土地を敷地として加え、敷地面積を拡大して建築確認を得ようと考え、これが本件〈1〉及び〈2〉の土地と一団の土地を形成するように記載された図面を被告雄に渡し、被告鈴木から設計・監理の委託を受けた被告雄がこの図面に基づいて作成した図面を添付して、建築確認申請手続を代行した。

(二)  しかしながら被告鈴木は、鴨下との間で、建築するマンションの日照阻害の問題については話し合いをしたものの、本件〈3〉の土地を本件マンションの敷地として使用させてもらいたいとの交渉をしたことはなかったのみならず、交渉しようと考えたこともなく、鴨下も本件〈3〉の土地を本件マンションの敷地として使用することにつき承諾を与えた事実はない。被告鈴木は、本件〈1〉及び〈2〉の土地の所有者である好村喜代との間では、昭和四五年八月一〇日右土地に期間五〇年とする地上権設定契約を締結したが、本件〈3〉の土地については、賃借人好村元三との間において、何らの権利も設定しておらず、マンション完成の暁には地上建物を取り壊すとの合意もしていない。

(三)  被告鈴木は、昭和四五年一〇月一二日付けで被告谷口との間で本件マンションの分譲販売業務を被告谷口に委託する旨の契約を締結した。この契約によると、被告谷口は本件マンションを販売する場合、対外的には売主となるが、被告谷口は被告鈴木から分譲価格の三・五パーセントの販売手数料の支払を受けることとなっており、実質上は被告鈴木の販売代行者として買主らに対する販売業務を行なった。被告谷口が作成領布した宣伝用のパンフレットには、本件マンションの敷地を一三〇〇・二一平方メートルとして記載されているが、被告谷口が売主として各買主との間で調印した売買契約書には、建物の敷地について賃借権を設定するものとされ、敷地の表示として本件〈1〉及び〈2〉の土地の地番のみが記載されている。そして、被告鈴木は各買主との間で本件マンションの敷地につき賃貸借(転貸借)契約を締結し、その契約書用紙は、被告鈴木の指示により被告谷口が作成したものであるが、右契約書には、転借権を設定する土地の表示として本件〈1〉及び〈2〉の土地一三〇〇・二一平方メートルと記載されている。

(四)  しかしながら、「一三〇〇・二一平方メートルの土地」とは前記のとおり本件〈3〉の土地を含む面積であって、その土地上には建物が存在し、そのままでは建ぺい率の規制に違反するものであったところ、本件マンションの完成検査に際し、行政庁からその旨の指摘がなされ、検査済証の交付が留保された。ところが被告谷口は、敷地のことは被告鈴木において解決するものと軽く考え、買主らにはそのことを知らせず、そのまま販売を継続し、昭和四六年八月二四日本件マンションの表示の登記がなされた後、買主らに対し逐次所有権保存登記を行なった。

(五)  その後も、被告鈴木及び同谷口は敷地面積を確保するための対策を講ずることなく経過し、前記のとおり昭和五三年五月一五日には本件〈3〉の土地がその上の建物とともに第三者の所有に帰し、これを本件マンションの敷地として使用することが事実上不能となったのであるが、この事実は、昭和五四年一二月九日被告鈴木及び同谷口のほか、好村喜代が主宰して本件マンションの区分所有者らに対し行なった本件〈1〉及び〈2〉の土地分譲に関する説明会の席上、初めて明らかにされたのである。

2  以上の事実に基づいて被告らの責任について考える。

(一)  マンションを建築して分譲販売しようとする建築主としては、敷地面積に不足のない建築基準法上適法な建築物として販売すべき義務があることはいうまでもないところ、被告鈴木は、本件マンションの建築面積を拡大することを企図し、本件〈3〉の土地を敷地として使用することにつき地主の承諾を得る意思もなく、また賃借権者との間においてもマンション敷地として従前の建物を取り壊すとの合意もせず、本件〈3〉の土地を含めた敷地面積で建築確認を得、行政庁から建ぺい率違反であるとの指摘を受けた後も、これを放置していたものであるから、買主との関係において不法行為の責任を免れない。

(二)  被告谷口は、本件マンションの売主の立場にあったものであるから、建築主と同様、敷地面積に不足のない建築基準法上適法な建築物を販売すべき義務があるところ、遅くとも行政庁から右のような指摘があった後も、建ぺい率違反の事実を買主らに告知せず、漫然販売を継続し、登記手続を行なったものである。したがって、買主らとの関係において、被告鈴木とともに不法行為に基づく責任は免れないものというべきである。

(三)  被告雄は本件マンションの設計・監理を、被告辰村組は建築工事をそれぞれ被告鈴木から請負ったものであって、このような請負業者が建築基準法に則って仕事をしなければならないことはいうまでもない。しかしながら、被告雄が被告鈴木から示され、それによって設計を依頼された図面によれば建ぺい率に関する建築基準法上の規制に十分適合していたのであるから、被告雄としては右図面に従って設計を行なえば足り、現にそのようにしたのであり、また被告辰村組は被告雄の作成にかかる設計図に従って施工したのであって、敷地を確保すべき責任は注文者たる被告鈴木にある。なるほど、右設計施工の段階において、本件〈3〉の土地上には建物が存在していたが、建築基準法上の敷地の確保は建物の完成時に満たされていれば足りるものと解すべきであって、設計施工中にこのような建物が存在していたこと自体は何ら違法な状態とはいえない。そして被告雄及び同辰村組が、本件〈3〉の土地を本件マンションの敷地として供用することが不可能であることを認識しながら仕事をし、またはこの点に過失があったことを肯定するに足りる証拠もない。

してみると、原告らの被告雄及び同辰村組に対する請求は、その余の判断をするまでもなく理由がない。

五  原告らの損害賠償請求権(請求原因5)について

1  以上によれば、被告鈴木及び同谷口は、買主らが被った損害を賠償する責任がある。そうすると、

(一)  原告番号に☆印を付した原告らは、同被告らに対し直接損害賠償請求権を取得した。

(二)  また原告番号に★印を付した原告ら(ただし番号1、12、17及び18の原告を除く)については、〈証拠〉並びに弁論の全趣旨によれば、別紙権利明細表の「債権譲渡の日」欄記載の日に同記載の直接購入者ら(直接購入者が死亡し、相続が発生しているものについては相続人ら)から損害賠償債権の譲渡を受けたことが認められる。

(三)  原告番号1及び12の原告らについては、損害賠償債権の譲渡を受けたとの証拠がない。また同原告らは、本件〈3〉の土地が第三者に取得されてしまい、被告鈴木及び同谷口において右土地を本件マンションの敷地として確保することが不可能となったより後に各区分所有権を取得したものであって、同被告らがそのような者に対して直接に不法行為責任を負うとも解されないから、同原告らの不法行為に基づく請求は理由がない。

なお、原告らは瑕疵担保責任に基づく請求もしているが、右のとおり損害賠償の譲渡を受けたとの証明がない以上、右請求も理由がない。

(四)  原告番号17及び18の原告らについては、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば直接購入者である長尾晃三の有していた権利を相続したものと認められる。

2  次に損害額について考える。

(一)  買主らが被った損害とは、前記のとおり建築基準法上の建ぺい率違反の状態について行政庁から違反建築物に対する是正措置を命じられる危険を負担しているという不利益であるが、それが現実化しているとの主張立証はないし、再建築に当たり当初の建築面積が確保されない可能性があるといっても、将来の不確定な事項に属することであるから、これらの損害を直接金銭で評価することは困難である。

(二)  買主らの不利益は、本件〈3〉の土地が本件マンションの敷地として確保されるならば回復される性質のものであるが、建築基準法上の敷地要件を満たすためには、右土地に賃借権のような明確な用役権が設定されなければならないものではなく、実際にも前認定の事実によれば、被告鈴木及び谷口は買主らに対し、右土地に明確な用役権を設定することを約した訳ではない。

(三)  鑑定の結果によれば、本件〈3〉の土地の更地価格評価(平方メートル当たり単価)は、昭和四六年八月において金一二万六四四〇円、訴え提起時の昭和五七年三月一六日において金三七万二六八四円、鑑定時の昭和六三年三月一日において金一二〇万一五〇二円であったことが認められる。ところで、買主らの損害は、遅くとも谷田部重雄が本件〈3〉の土地を取得した昭和五三年五月一五日には確定的になったものというべきであるから、損害算定の基準時はこれに最も近接した訴え提起時とするのが相当である。被告らが当初敷地とすることを予定した右土地の面積は一二六・九五平方メートルであるから、訴え提起時における右土地の更地価額は金四七三一万二二三三円である。

(四)  〈証拠〉によると、本件マンション及び専有部分は六一戸であると認められ、また、各専有部分の面積は別紙権利明細表記載のとおり大小があるが、買主らが被っている右損害の性質から考えるならば、損害額の算定に当たり各戸の面積に応じた差を設けることは相当でない。

(五)  以上(一)ないし(四)で示したところを総合考慮すると、買主らが被った損害は、訴え提起時における本件〈3〉の土地の使用借権の価値程度のものと考えるのが相当で、その各戸あたりの額は右更地価額の約二割を戸数で除した金一五万円宛(共有の場合は持分の比率で配分)と認めるのが相当である。原告らは、第一次的に鑑定時を基準として算出した損害を請求しているが、理由がない。

六  結論

以上の認定判断によれば、原告らの本訴請求のうち、原告前田武雄(原告番号1)及び同尾曽越俊邦(同12)を除く原告らの被告鈴木及び同谷口に対する請求は、別紙請求金目録の「認容金額」欄記載の金員とこれに対する訴状送達の日の翌日(被告鈴木について昭和五七年四月二〇日、被告谷口について同年四月一八日であることは記録上明らかである。)から支払済まで年五分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるから認容するが、同被告らに対するその余の請求並びに被告雄及び同辰村組に対する請求は失当として棄却し、原告前田武雄(原告番号1)及び同尾曽越俊邦(同12)の請求は全部失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条の規定を、仮執行の宣言につき同法第一九六条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 土居葉子 裁判官 永井尚子は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官 原健三郎)

別紙〈省略〉

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